平成20年1月16日
京都クオリア研究会
研究員 堀場 雅夫
中川 雅之
中西 寛
西村 周三
鹿野 嘉昭
篠原 総一
山口 栄一
(アルファベット順)
1200年もの間、京都人は、数々の危機に見舞われながら独自の文化を育み、誰もがあこがれる、そんな誇りある「まち」を残してきました。あの高度成長の時代にも、東京を中心とした画一的価値観とは一定の距離をおき、京都のよさをまもってきたのです。しかし、その京都がいま、「経済優先」の開発の論理、「数を追求する」観光の論理、国と地方の縦割りの論理に翻弄され、「特徴のない一地方都市」になる危機にさらされています。
地方分権とは、中央政府・霞ヶ関の支配を廃し、地方の視点にたって、それぞれの地方の個性を活かす都市経営を行うことにほかなりません。その地方分権が始まるいま、優れた文化と伝統、そして卓越した自治の歴史をもつ京都こそ、子供から高齢者まで、誰もが住んでみたいと思う、21世紀の「グッとくるまち」を創るのにもっともふさわしい都市ではないでしょうか。
いまこそ、日本さらには世界に先駆けて、「地域主権国家」の実現にむけた京都モデルの開発に着手する絶好の機会なのです。しかし、そのためには、市長の大胆かつ柔軟な政策立案と実行に移す力が何よりも求められます。われわれは、少子高齢と環境劣化が進むこれからの時代に、京都の誇りをまもり、しかも誰もが安心し、暮らすことに感激できる、京都をそんなまちにするために、新市長に対し次のような政策の実現を求めます。
長年にわたって京都は、コンパクトな空間に、多彩な技能と能力を持つ人材、そして経済活動をひきつけ、それらの交流を通して新しい価値やアイデアを生み出してきました。祇園祭を実行する町衆の心意気は、まさにその象徴です。このような伝統を取り戻すためには、職住接近を更に強力に推し進め、無駄な移動時間と環境への負荷を削減するとともに、京都のもつ「コンパクト性」の価値を高めることが何よりも大切です。
職住接近によって、週に十数時間、年に数百時間もの「自分や家族の時間」が生まれ、それだけ家族とコミュニティに足場をおく生活が実現します。同時に、通勤や買い物などのあらゆる移動活動が減少するため、車社会に代えて、京都議定書で定める目標達成に通ずる環境を重視したまちづくりが可能になります。
このような時間密度の高い都市を実現するために、人口20〜30万の規模を目安に、京都市全体を、ある程度まで自己完結的な行政サービスが提供できる5〜6のゾーンに分けます。このようなゾーンの中には、生活空間と、工場、事業所や、場合によっては農業などの第一次産業が並存します。現代の技術は、クリーンで騒音とも無縁の工場生産を可能にし、さらには建物の屋上を含む都心部で環境に配慮した農業をおこなう技術開発も進み、すでに事業化に向けて動き出しています。
そして、このような職住接近を実現するためには、柔軟できめ細かな都市計画「京都モデル」が必要になるのです。具体的な取り組みとして、JR京都駅近くの産業空間において、周辺のまちづくりとリンクさせながら、「京都の顔」として職住一体街区整備モデル事業に着手します。
全人口の5%を超える団塊世代の退職がすでに始まっていますが、少子高齢が進むこれからの社会では、この世代が蓄えてきた技能や知恵を積極的に活用すると同時に、人生の後半を迎える世代に対し、生き甲斐を感じながら暮らしていく場を提供していく必要があります。とくに、京都に数多く集積する伝統産業や中小企業は、これまで海外を含めて他地域で活躍してきた人材や地元企業で働いてきた質の高い経験者を求めています。そのため、行政が率先して潜在する意欲ある退職者を見出し、地域企業の需要と結びつける役割を果たす必要があります。
宗教家、大学人、高齢者などのボランティアによってクオリティ・オブ・ライフを支援するネットワークを立ち上げ、市民が自分と向き合い、心身の調和がとれた人生を送れるよう支援します。そのためには、行政と各種の専門的知識・能力をもつ市民の協同が不可欠です。
不慮の事故や思いがけない家族の死亡を経験した人々に対して、心と魂の力の向上を図る「悲しみケア」や、DV(ドメスティック・バイオレンス)などさまざまなトラブルに悩む人々に対するケア体制を、京都市が宗教家やボランティアと協同して活発化することが、「まさかのときの安心」につながるのです。
奈良、大阪などの大都市部でも、救急患者が病院間の「たらい回し」によって死亡するという深刻な事態が発生しています。京都市にとっても、決して他人事ではなく、このようなケースを間近に迫った危機の予兆だととらえるべきです。救急医療体制の整備は京都府が主体的な権限を持っていますが、京都市も積極的に対応し、事前の予防策を講じる必要があります。具体的には、(1) 緊急度の高い産科、小児科、心臓・循環器疾患対応などを含め、受け入れ可能な体制を、京都市内の5〜6のゾーンごとに整えます。更に、病院の専門的機能を市民にわかりやすく公開し、病院のネットワーク化を図ります。(2) 比較的軽症と考える段階での救急相談体制(具体的には「#8000」)を整備します。また(3) 救急受け入れ病院の診療状況の情報を常時公開します。
近年の救急医療体制の危機や医療費の高騰は、市民の「ヘルスリテラシー」の向上を通して大幅な緩和が可能となります。そのため、医師会との協力によって、救急受診教育など市民の予防・保健知識の向上を図る場を設ける必要があります。
介護保険の適用にあたって、思い切った在宅、居宅ケアの整備を行います。とくにゾーンごとに、賃貸住宅を借り上げ、小規模多機能型施設を充実させます。このような方式は、施設ケアを重視する現在の施策より、費用対効果という観点からもはるかに望ましいのです。
パークアンドライド駐車場などの整備を通して既存公共交通機関の利便性を高めるとともに、鉄道、地下鉄、バスのネットワーク化を強化します。また、京都議定書の達成を目指す環境を重視したまちづくりの一環として、安心して京都を散策できるように歩道と自転車道を分離します。
中長期的には、京都都心部や観光地をゾーンで区切り、ロード・プライシングやマイカー抑制を実施する地域を創設します。ゾーン周辺部にパークアンドライド駐車場を十分に確保すると同時に、ゾーン内では既存型公共交通機関とムーバスなどの小規模公共交通機関、自転車の組み合わせなど、多様な取り組みを通して道路混雑のない、そして環境にやさしい交通体系を整備します。
京都の大学と企業が共同でジョブマッチング政策を立案し、そのための教育プログラムを実行します。人材育成という視野から、中小企業を中心とする京都企業と大学との産学連携の裾野を広げます。
学問だけに集中する従来型の単線教育に加えて、個々人の得意な分野の能力を伸ばす教育として、伝統的な文化・芸術や先端技術、スポーツなど、京都ならではの複線教育を推し進め、それぞれの分野で世界トップの教育を目指します。このような複線教育は、世界のオンリーワン企業が求める専門分野におけるナンバーワン技能をもつ人材の供給にもつながります。
世界の人材が集結、交流して共鳴しあう環境を整えます。とくに、海外からの留学生や研究者の不要な心配を取り除き、勉学や研究に励めるように、関係機関、団体などと協力して、京都に「留学生研究・生活総合支援ネットワーク」を整備します。
行政機能の縮小、人員削減、民営化という従来の手法ではなく、市民が真に必要とする行政サービスを市民自らが決め、それを実行していくための市役所と市民の『新しい関係』を構築することが必要です。行政職員と市民がスクラムを組むことにより、日本が、そして世界が目を離せないサプライズ施策を次々に打ち出すことが可能になります。
市民の参加意欲を引き出し、行政、市議会議員、市民が協力して市政に関与する体制を整えるためには、何よりもまず、市政の実態と改善ポイントを市民に分りやすく開示する必要があります。そのためには、役所的表現を多用する現在の開示方法を廃し、専門家による市政実態の分析と分りやすい説明が不可欠です。
「市職員は率先して地域へ」をモットーに、職員を区役所に重点的に配置し、福祉、安全提供サービスなど市民生活に直接的に関わる業務の担当を重視し、本庁では、京都市のビジョンに関わること、行政区にまたがること、各区の調整業務などを担当します。現状では、市職員の業務と配置職員が本庁に偏りすぎています。各種団体の意見を聴取するという間接的な民主主義だけでは、住民の生の声が聞こえにくいからです。
府市協調もきわめて重要です。府市協調は、これまでも課題として取り上げられてきましたが、十分な成果を上げるには至っていません。今後、京都府と京都市による行政サービスの不必要な重複を避ける一方で、必要な場合には府市が共同でことに当っていくためにも、市長の強い意志と強力なリーダーシップが求められています。
京都市の財政は、固定資産税をはじめとする市税収入が少ない上に人件費や社会福祉費が総予算の5割に及ぶなど硬直化し、他の政令指定都市と比べても厳しい状況にあります。さらに公営企業など特別会計の経営実態を加えれば、抜本的な行財政改革の遂行が急務であることは明らかです。住民サービスを低下させず、同時に行財政改革を実現するためにも、住民参加と市民に分りやすい情報公開が不可欠です。
以上のような大胆な行財政改革を進め、住民本位の都市経営を維持していくために、市長の下に市長本局(仮称)を設けるとともに、政策の分析や制度設計の検討、市長に対する政策選択の助言等を目的とする、専門家を中心にした第3者機関を設置します。
※2007年11月当時に発表した政策 提言の内容です。
京都は、コンパクトな空間に様々なスキルを持つ人材、経済活動をひきつけ、その交流によって新しい価値やアイデアを生み出してきました。
職住接近を更に推し進め、無駄な移動時間と環境への負荷を削減するとともに、そのコンパクト性の価値をさらに高めます。新しく生まれた時間で自分の時間を楽しみ、家族やコミュニティ、地域を思いやる時間が持てる都市、そして車社会からの転換をうながして環境に優しい都市を創ります。
(人材の集積と交流)〜京都の財産は、人の知と感性です
・世界の人材が集結、交流して共鳴しあう環境を整えます。
・日本に来た留学生、研究者が不要な心配することなく勉学、研究に励めるように「留学生研究・生活総合支援ネットワーク」を、関係機関、団体などと協力して京都で整えます。
・京都の大学と企業とのジョブマッチングを(財)大学コンソーシアム京都などとの連携で行い、京都企業への定着と産学連携の裾野を広げます。
・学問のみの単線教育ではなく芸術・伝統工芸、茶道・華道・武道、ゲーム・映画クリエーションなど、京都ならではの複線教育を推し進め、それぞれの分野で世界トップの教育を目指します。
(産業の集積と交流)〜新しいイノベーションのモデルを提供します
・土地利用計画を見直すことで、騒音も環境汚染もまったく出さないアトリエ(工場)や、商業、大学、研究機関、そして住まいが共存できる都市を創ります。
・JR京都駅近くの産業クラスターは、周辺のまちづくりとリンクさせながら「京都の顔」として、職住一体街区整備モデル事業として取り組みます。
・新しい産業を生み出すイノベーションの核となります。京都議定書の達成を京都が率先して果たすために、新しい環境・エネルギー技術や情報通信技術を試す共鳴場を提供して、環境負荷を出さない10年後の産業社会のモデルを創ります。
(人に優しく精神性の高い暮らし)〜京都は「私の生き方」のモデルを示します
・宗教家や大学人、高齢者ボランティアによってクオリティ・オブ・ライフを支援するネットワークを立ち上げ、市民が自分と向き合い、心身の調和のとれた人生が送れるようサポートします。
・不慮の事故や思いがけない家族の死亡を経験した人々に対して、心、魂の力の向上を図る「悲しみケア」を実施します。
(救急医療体制の整備)〜おこしやす、少子高齢社会。京都は体制が十分です
・緊急度の高い産科、小児科、心臓・循環器疾患を含め、5分以内に受け入れ可能な体制をブロックごとに整えます。更に、病院の専門的機能を市民にわかりやすく公開し、病院のネットワーク化を図ります。
・パークアンドライド駐車場の整備などで、既存公共交通施設の利便性を高めるとともに、鉄道、地下鉄、バスのネットワーク化を進めます。
・安心して京都を散策できるように、歩道と自転車道を分離します。
・京都の都心部や観光地をゾーニングにより、プライシング、マイカー抑制を行う地域を創設して、多少不便があっても都市の質やブランドを守ります。ゾーン内では、公共交通機関やムーバスとの組み合わせなどにより、京都市民にも、環境にもやさしい新交通体系の整備を中長期的に図ります。
高い精神性や利他の心など、歴史文化のまちだからこそ育まれる日本の心があり、京都のまちで育った人の心が京都の最大の資産です。その思いやりの心を発揮させるために、思いやりが届く範囲の20万人から30万人規模のゆるやかな行政区をつくります。
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・従来の構造改革によって行われてきた行政機能の縮小と民営化という手法ではなく、本当に必要とする行政サービスを市民自らが決め、市役所と市民との『新しい関係』を構築します。行政職員と市民がスクラムを組むことにより、日本が、そして世界が目を離せないようなサプライズ施策を次々に打ち出すことが可能になります。
・将来的には区役所は市民生活に直接関わるほぼ全ての業務を担当し、本庁は京都市のビジョンに関わること、行政区にまたがること、各区の調整業務などを担当します。例えば、住民協議会のような自治意志決定組織を設置することで、自律したまちづくり・人づくりの仕組みをつくります。




