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第8回クオリアAGORA 2016/ディスカッション



 


 

スピーチ

ディスカッション

コンファレンス

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ゲストスピーカー

京都大学大学院人間・環境学研究科教授

森谷 敏夫さん



ディスカッサント

医療法人知音会理事長

田邉 卓爾さん


京都大学大学院理学研究科教授

高橋 淑子さん


武庫川女子大学名誉教授

高田 公理さん


京都大学大学院理学研究科教授

山口 栄一さん



モデレーター

写真家

荻野 NAO之さん





荻野 NAO之 (写真家)


では、きょうは、医師の田邉卓爾さんがお見えになっています。 まず、田邉さんから、健康、肥満ということや森谷さんの今のスピーチに対するコメントをいただき、その後で、いつものディスカッサントのみなさんのお話をうかがいたいと思います。 では、田邉さんよろしくお願いいたします。



田邉 卓爾 (医療法人知音会理事長)


先生のお話は、ずいぶん耳が痛かったですね。 確かに先生のおっしゃる通りで、栄養学とか、運動についてはほとんど教育を受けていないので、実は、患者さんに聞かれても、じゃあ、栄養士さんに話を聞いてください、とか、まあ、その点については怠慢っていうのが本当のところだと思います。 それで、今、先生のお話を聞いていて、まったく同意します。 特に、NEATを増やしなさいというところは、非常によくわかります。 われわれ、京都、大阪で、人間ドックとか健康診断とかを中心に事業をしているんですけれど、とにかくよく言われるのは「太ってかなん。 どうしたらええんや」ということです。 それで、「体、動かしなさい」というんですが、「そんな時間あらへん」というのが、もっともよくある反論なんです。 確かに、そういう方々は、仕事が忙しくて、夜帰るのは遅くて、朝も早いというような生活を送っておられるので、そこの動機づけをどうしていくのかというのがこれからの問題だと思っております。 森谷さんのお話をうかがって、感じたことです。




森谷 敏夫 (京都大学大学院人間・環境学研究科教授)


それですよね。 日本の国民でも、いつかの調査にありましたが、「運動は健康にいいですか」と問うと、よほどのへそ曲がりでない限り、100%近くが「それは正しい」と。 でも、「あなたは運動してますか」については、2割ぐらいと、意識と実践にはギャップがあります。 なかなか、運動しても、継続している人が少ない。 お医者さんからも、「どうしたら、運動してもらえるか。 ノウハウはありますか」と、よくよく聞かれるんですけれども、こればっかりは、患者ご自身の問題で、自分の症状と、まあ、きょうみたいな話をじっくり聞いてもらったりしたら、少しは、運動に対する行動が変わると思いますが…。 とにかく、自分が納得するところまでいかないと、行動は変わらないですよね。 この辺が進んでいるアメリカの場合だと、「運動して痩せたいですか、食事療法がいいですか」と聞いて、運動が嫌だという人には、運動は勧めないです。 もう、無理だから。 それで、食事制限でやる自信があるというと、ある程度、動機づけがあるので、そこから始める。 つまり、最初は、食事から行って、運動については知識だけ与えておく。 そして、徐々にブレークしていって、最終的に「両方やると一番いいですよ」という話になって、軽い運動から始めましょう、というような感じで行動を変えていくというのが、アメリカのやり方です。


ほんと、難しいんですよね。 みなさんも、きょうの話だと、ちょっと運動して、NEATを増やそうかなと思ったでしょう、肥満の話も考えて。 だから、最初に、ある程度、知識でしっかりベースを押えておくと、日本の場合は、アメリカと違って意識が高いので、うまく情報が流れると、予防的なことができると思いますね。 きょうみたいな話、みなさん初めて聞いたんではないでしょうか。 そういうものが、もう少し広く浸透すれば、メタボの方も減っていくと思うんですよ。


特に、きょうは、まったく運動の話をしなかったんですけど、NHKが、運動するってことを最近よく取り上げている。 脂肪の方からは、悪い活性物質が出るんです。 太ってくると。 逆に、それと真っ向の作用をする生理活性物質は筋肉から出るんです。 今、筋肉から、ものすごくたくさんその生理活性物質が出る、ということがわかってきています。 そのうちの一番ホットなトピックスというのは、運動すると、記憶をつかさどる海馬に遺伝子が発現して、神経細胞を増やしたり、脳神経細胞の学習能力とか記憶能力を昂進させたり、ものすごく強めることがわかりました。 そういう遺伝子が見つかった。 これ、人で証明できたのが2010年です。


これは、ものすごい実験をしたんです。 どうやったかというと、心臓から脳に行っている動脈にカテーテルを入れ、脳から降りてくる静脈にもカテーテルを入れ、それで運動させるんです。 そうすると、動脈と静脈の濃度差が脳で作られた物質なので、その中で遺伝子がどうなっているかを調べたら、バーンと3倍ぐらい増える。 それは、ラットと同じくらいの実験結果で、その後、70歳ぐらいの方に、1年間運動してもらうと、海馬の領域が、今はビジュアル化できるんですけれども、その容積が2%増えたといいます。 普通は、海馬は年齢と共に委縮していって、記憶が悪くなるんですけれども、その実験だと、1年で可逆的に2%増えたというデータが得られた。 そういうのがあるから、NHKが、今、運動中にしりとりしたりすると認知症の予防にいいとか、一生懸命、運動のプログラムをやっていますけれども、分子レベルでは、もっともっと先がわかっています。


そういうことで、筋肉を使うと、「Irisin(アイリシン)」という物質が筋肉から出て、脂を貯める脂肪が、エネルギーを無駄遣いしてくれる褐色脂肪細胞のような脂肪に変わっていくっていうこともわかっています。 だから、よく運動している人はスリムな人が多いというのは、運動すると、そういう脂肪の細胞が、エネルギーを燃やす方の脂肪に多少変わるということもわかってきているんです。


ぼく、冬、寒くないんですよ。 筋肉に褐色脂肪細胞が、運動で増えるので。 だから、京都に来てからも、ぼく、コート着たことないです。 手がしびれるほど、よっぽど寒い時に、ベストを着るだけです。 全然寒くない。 逆に言うと、冬、寒い時に、交感神経で熱を産生しますから、冬には、動物は結構痩せるんです。 人だけです、冬に太るのはね。 体温を維持しようと思うと、カロリーが必要なんです。 冬は、まさしく痩せやすい時。 女性へお勧めするのは、ちょっと頑張ってミニをはいて、スカスカって歩いたら、絶対痩せますよ。



荻野


では、ディスカッサントの皆さんに質問を投げかけていただこうと思いますが、もうひとつ、森谷さんのお話の中で、行動変容の難しさということが出てきました。 それで、自分だったら、どうしたら変われるか、あるいは、こうやって行動を変えた、というようなご経験があれば、それについてもお話しいただけたらと思います。 では、山口さん。



山口 栄一 (京都大学大学院思修館教授)


きょうのお話で、今までのいろいろな「ダイエット物語」というのは、結構嘘がいっぱいあったんだとわかって、確信を得た気がします。 それで、きょうのお話をすごく簡単にまとめると二つだなあと思ったんですが、それが間違ってないかどうかお聞きしてから、自分の行動をどう変えてきたかについてお話したいと思います。


一つ目は、とにかく筋肉は動かせ。 二つ目は、悪者は脂肪である、糖はいいんだ。 どうでしょうか、こう考えて間違いないですか。



森谷


そうです。



山口


私、実は、筋肉を動かせという点では、半年前からいいことをやってたんだなと確信を持ちました。 というのは、私は、もともと運動がすごく嫌いで、さらに、歳をとってきたらますます嫌いになりまして、それで、一念発起して、パーソナルトレーニングを始めたんです。 1週間に2回です。 パーソナルトレーナーを借り切って、1時間やります。 これは、非常によい。 普通、筋トレをひとりでやるとくじけちゃうでしょう。 しかしパーソナルトレーニングは、妥協が許されない。 しかも、このトレーナーはイケメンの英国人なので、英語を話す訓練もできて、頭も活性化するので、続けられるわけです。 でも、最初の3カ月はすごくつらかった。 でも、へこたれなかったです。 すると、そのころから、気持ちが変わってきまして、ある種の「detachment(超然)」の感覚が得られた。 瞑想の時に得られるような、つまり、筋肉を動かすのはつらいが、そのつらい自分をそっちに置いておいて、それを見つめる自分が現れて、つらいと感じなくなってきた。 ある種の瞑想効果みたいなものがあるみたいです。 今は、すごく楽しい。 トレーナーは、顔色を見ながら、ちょうど、自分のレベルよりちょっと上のところで終わらせる。 プロと一緒にやるのは、ほんとにいいです。 これ、お勧めです。



高田 公理 (武庫川女子大学名誉教授)


それって、「RIZAP(ライザップ)」がやってるようなトレーニングですね?




山口


ああ、ライザップの話ですけど、確かにパーソナルトレーニングの部分は、いいと思うんだけど、テレビ見ていると2カ月で変容するって、あれは、あっちゃいけないことと思いますね。 不健康な感じがします。 あのダイエットの部分はよくないと思いますね。 それで、ちょっと伺いたいんです。 半年前から、ココナツオイルを飲んでいて、本を読むと、それよりMCTオイルというのがもっといいといわれているので、それを、朝いつもコーヒーに入れて飲んでいるんです。 でも、なんか嫌なんですね。 結局は脂肪じゃないですか。 太るって感じがするんですよね。 それで、きょうの話は、ココナツオイルはぎりぎりOK。 でも、脂肪はダメだよということでしょう。 この最終結論を聞きたいんですよ。



森谷


油脂(あぶら)もすごくいいのがあるんですよ。 ココナツオイルとか、オリーブオイル、あるいは、オメガ3系という脂肪酸。 これは、体にとっても、脂肪を分解する時にも使うので、多少の油脂はいるんですよ。 ただ、わざわざ、自分から入れるほどのものでなくていいかなあ、と思います。 お魚の脂なんか、非常にいいんですよね、DHAが高くて。 でも、旬の魚がうまいからといって、2匹も3匹も脂ののった魚を食べれば、いいオイルは入るんだけど、カロリーは多くなります。 そこだけです。 油脂は決して全部が悪いわけじゃない。



山口


そうすると、きょうから、私は、またあらためて確信に変わりましたけど、パーソナルトレーニングはもっと頑張る。 脂肪は徹底的に止める。 けれども、ココナツオイルとかMCTオイルは、悪くはない。 それ続けたいと思います



森谷


お魚の脂は、それなりにOKです。 それで、3カ月っていうのはね、キーワードなんですね。 アメリカのスポーツ医学会でも実験があって、昔ね、「ランナーズハイ」っていう現象が起きて、あんまり運動されなかった方が運動すると、運動に「Addiction(嗜癖)」を起こす人がいて、これ、私もそうだったんですけど、つまり、それは、体内麻薬ができるんですね。 「βエンドルフィン」という麻薬状の物質が脳から出てくる。 それは、最初から味わえるものではなくて、ある運動の強度が越えて、それに対して脳が「苦しいけど頑張ろう」っていった時に、「ドーパミン」が出てきて、それから分離してエンドルフィンといういわば痛み止めですよね。 自分の体を痛めてやると、自分で、それを出す。 しかも、運動した後にもしばらく残っているので、非常に爽快感がある。 それが、エンドルフィンの効果で、でも、それが味わえるには、ちょっときつい運動をできるようにならないといけないんです。 かるーく鴨川を歩いているぐらいでは、エンドルフィンは出てこないですね。 だから、山口さんの今のトレーニングは、非常にいいと思います。







高田


ぼくは、年寄りなので、もう、きつい運動はしんどいなあと思います。 それで、ひとつ思い出すのは10年ばかり前に、女子大で学科長というのをやっていたのですが、ちょっと油断すると、つい会議が長くなる。 これが実に鬱陶しいので、「えらい長いことかかる話のようだから、皆、立って会議を続けることにしましょう」こうすると会議が、わりあい早く終わります。 そんなことを思い出したりしていたのですが、最近は高さの変えられる机があるようですね。 普通、座って使う天板の高さは70㌢位なんですが、それをひゅっと延ばすと、90㌢位の高さになる。 と、立った姿勢でのパソコン操作ができるようになる。 こういうのが普及すると、激しい運動にはならないものの、日常的に立って作業するということが、より身近になるかもしれませんね。



森谷


そうですね。 動機づけの時もあるんですけど、考え方によって、みなさん、よく運動は例えば、ジョギングをしたいとかいうんだけど、力×距離なので、例えば、1キロのジョギングしても、1キロ歩いても、使ったカロリーは一緒ですよね。 つまり、鉄1キロも綿1キロも重さは一緒というのと同じこと。 走るも、歩くも距離が一緒なら同じなのに、みなさん走ろうとするんですよね。 で、走ったら息が上がって、800㍍ぐらいで、もう「やんぺ」ってなる。 そしたら、それ、例えば、8分で終わるかもしれないとすると、15分かかって1キロ歩いたら、使ったカロリーは、それ以上なんです。 時間はかかっているけど、物理的には、たどり着いた距離が問題なんです。 だから、走ろうとしなくてもいいんです。 1キロしかジョギングできなければ、2キロお歩きになったら、2倍運動してるんですよ。



高田


同様の思いから、ぼくは70歳を起点にゴルフを始めました。 コースに出ると毎回、大体6キロぐらい歩きます。 これはなかなかいいかも知れないと思っています。


ところで、例えば京都の高雄病院でしたか、その院長の先生なんかは、糖尿の治療に「糖質制限」を提唱しておられますね。 この先生の議論には、かなり間違いがあるとは思います。 たとえば、穀物栽培が始まる以前、つまり5000年から1万年以上もの人類は、動物の肉ばかり食べていて、炭水化物は食べなかった、といった前提で議論を進めておられるようです。 でもね、最近まで狩猟採集生活をしていた現生人類の食生活を参照すると、この前提はちょっと怪しい。 たしかに北極に近い地域の狩猟採集民、たとえばカナダエスキモーなどは、ほとんど動物の肉だけを食べていたようです。 が、赤道近く、たとえばアフリカのサバンナに住んでいた狩猟採集民の食物の多くは植物食で、けっこう大量の炭水化物を摂取していたからです。 にもかかわらず、糖質制限を提唱しておられるお医者さんは、徹底的に糖質摂取を排除することで糖尿病の治療ができるというわけでしょ?  そういう意味では、まったく栄養学のことを知らずに、こういうことを提唱しておられるのでしょうか。 しかも、そうした議論がいくつもの本になって公刊されている。 これは単なる無知の結果なのでしょうか。 そうだというなら、非常に理解しやすいのですが……。



森谷


いや、あのね、学会のレベルでも、そういう討論会をやらせているんですね。 一昨年だったかな、糖尿病の専門医の間で、肉だけ、糖質を徹底的に排除する治療と一般的な炭水化物を減らす治療と、どっちがいいのかというお互いが意見交換したりしてます。



高田


そうした議論は、きちんとしたデータに基づいて行なわれるわけでしょ、普通は。 ならば一定程度は共通の結論に到達しそうにおもえるのですが……。



森谷


そうです。 で、そのデータっていうのは、医学部で実験する時は、なかなか人で、きれいなデータが取りにくいので、やっぱり、動物になったりするわけですよね。



高田


なるほど。 で、動物の場合は、糖質でなければ機能しない脳みそが、人間に比べるとずっと小さいから、まるで違う話になる。 こういうことなんですかねえ。



森谷


アメリカのスポーツ医学会も、ごく最近、さっきの話に出た「Ketogenic(ケトジェニック)」でってことが関心を集めている。 ある探検隊が、極地かなんかに行った時、食べるものがなくて肉だけ食い始めたと。 すると、最初の2、3、4日は低血糖になってきて、意識もボーっとして、運動する意欲もなくなってきた、と。 ところが、1週間ぐらいしてから、だんだんすっきりして動けるようになってきた、肉だけでも。 つまり、人間の体というのは、極限まで行くと適応するんだと言っておられる。 なぜかというと、ラマダンとか宗教によっては絶食をしますよね。 そういう状況でもね、ラマダンの時に重なっても、スポーツ選手の成績がいいんやということもあって、だから、炭水化物は絶対不可欠ではない、という意見がちょっと出たのです。 ただ、これに対して、イギリスのいわゆる「正統な人たち」は、「なぜ、そこまでリスクを冒すんだ」と。 結局、低血糖になってきたら、ふらふらになって、意識も薄れるので、けがをするかもしれない。 そういうこともあるので、もう少し科学的な、炭水化物も含めたスポーツ栄養の仕方があるのに、なぜ、わざわざ、そんな極端なことをしなければいけないのか、という意見も出された。


体重は、確かに落ちるんですよね。 日本の先生方のデータというのは、炭水化物だけ抜けば、脂肪、たんぱくなんぼ食べてもよろしい、というグループともう一つは、炭水化物を多めに食べて、その辺のものを減らしなさいというグループを作って、1、2カ月ほど続けさせ、比較するんです。 そして、体重を測りましょう、です。 すると、当然、炭水化物を食ってるグループは重くなってるわけですね。 それで、炭水化物抜いたほうは、血糖値は上がらず、グリコヘモグロビンA1Cはええスコアになる、と。 体重みればすごく痩せている。 それやれー、ってわけです。


ぼくたちみたいに、アルキメデスの原理を使った水中体重法では、比重を測って、ほんとうの体脂肪を測ります。 医学部は、ここまでやらないです。 体重だけで、体重が落ちたらいいと。 これでは、炭水化物をとった方は、たいてい負けますよ。 それと、もうひとつ問題で、ぼくが反論しているのは、炭水化物が減ってきたら、筋肉もなくなっていくんですよ。 だから、糖尿病の患者さんで、体重が減っていくことは結構いいことなので、お医者さんにとっては、太っている人らにとっては、脂肪が減っていくことはいいことなんだけども、おまけに、その糖質があまりにもなかったら、脳はケトン体で多少いけるんですけども、それ以外のカロリー、50%近くは、必ず筋肉が糖質を使うわけです。 それがなかったら、何を、筋肉は使うねん、と。 何が、脳を最終的には生かせるのか。 やっぱり、筋肉を分解していくんですよ。 すると、1年ぐらいはいいですけど、2、3年、ものすごく低い低炭水化物を食べてると、さっき言った、心理的に鬱っぽくなったり、筋肉、無くなってくるんです。 筋肉がなくなってくると、運動しにくくなるし、脂肪も糖代謝も絶対的なキャパが落ちてくるんです。 筋肉が細れば細るほどね。



高田


そういえば、糖質制限ダイエットは、最長でも2年以上は続けてはいけない。 そういうガイドラインが設定されているようです。



森谷


そうでしょう。 それは、筋肉がなくなってしまうからです。



荻野


では、高橋さん、どうぞ。



高橋 淑子 (京都大学大学院理学研究科教授)


ありがたいお話を聞かせていただきました。 私は、生命科学をやっていますので、こういうことは、知ってないといけない立場だったんでしょうが、ちょっと一点だけ、おうかがいしたいと思います。 最初に、肥ったおばちゃんが出てきてコーヒーにお砂糖を入れて…、がありましたが、コーヒーの砂糖は、あれは実は、悪くないっていうお話でよかったんですよね。 しかし、悪くないからといって、調子に乗って、砂糖をカポ、カポ食べると、やっぱりでぶになるわけですね。



森谷


トータルのカロリーが同じ条件の時に、その内訳が、糖質を多くして、脂肪を少なくしている方が圧倒的に太りにくいということです。



高橋


そうですね、よくわかりました。 それで、恥を忍んでなんですけど、タンパク質が脂肪に変わるとか、炭水化物が脂肪に変わるとかって、何かはっきりしなかったことが、それが、きょうのお話で、パッと変わりました。 それで、ちょっと生命科学者を外してお話をさせてください。 私も、体重計に乗ってね、あら、食べ過ぎたわねっ、こりゃ頑張って体重減らさなくっちゃって…。 女性の方なら、そうやっていません? でも、頑張っているつもりだけど、なかなかうまくいかない。 私も、こう見えて、そういうことが気になる女なんですよ。


で、クエスチョンは、理屈は何でも、体重が増えると落ち込み、ちょっとでも減ると、やったーって思う。 これって、ある意味インセンティブなんですよね。 でも、きょうのお話だったら、炭水化物がグリコーゲンに変わって水を呼ぶから、体重は増える。 でも、それは悪くないんだという。 それは、なるほどと思った。 では、ポイントはですね、日常の生活において、何を喜びとして、つまりインセンティブにして頑張ればいいかなあということです。 高級な機械を使わずに、何かいい方法ありませんかね。



森谷


インセンティブっていうのは、多分そうですよね。 女性の場合は、「ケーキは別腹」って感じで、食事の後にケーキは食べられるっていうことなんですけど、例えば、食べてもいいんですよ。 これから、もう少し賢く食べようかなって、毎食考えて食べることではないかと思います。 ぼくの場合は、すごくマニアックなんですけど、毎食、すごいしっかり考えて食べます。 ぼくは、タンパク質は、自分の筋肉維持のために、体重67キロですので、毎日最低70グラムが絶対必要なんです。 まだ、走ったり跳んだり、まだ筋肉大きいので、80グラム朝昼晩3回で摂る。 それで大体目安として、朝から、30グラム程度摂るんです。


女性も男性も最近、たんぱく質不足だと言われているんですね。 タンパク質が足りない人は、これから、年齢と共に筋肉が劣化していきますよ。 筋肉のタンパク質って、朝から晩まで壊されながら合成されているので、例えば朝ごはん。 女性の場合特にヘルシーなサラダです。 これ、いいんですよ。 でも、タンパク質が入ってないんですよね。 牛乳も太りそうっていうので飲まないですね。 フルーツで炭水化物摂って終わり。 それで終わっちゃう。 前の晩に、魚を食べて多少タンパク摂っていますけど、朝はゼロ、昼もヘルシーで同じようなものを食べていると、朝から昼までに、筋肉のタンパクの分解の方が多くなって、確実に筋肉が減っていきます。


どのぐらいのタンパク質を摂ったらいいか。 ぼくは、朝昼晩食べて、例えば朝、卵1個、これで10グラム、牛乳180㏄で6~7グラム、それから、トーストはとろけるチーズをのせて電子レンジでチーン。 これで、5~6グラム。 そして、でっかいヨーグルトを食べる。 これでたんぱく、糖質は足りる。 腸内菌をしっかり育成するために、発酵食品を食べる。 これ、お昼も同じようにきちんと考えて食べる。 バランスよく食べてると代謝もいいので、基本的には太りにくくなるんです。



高橋


体重計に乗って、「ああ、よかったって」いうのも大事ですよね。



森谷


そのことは、非常に大事です。 毎食、バランスよくっていうのは、なかなか難しいことが多いので、体重もそうなんです。 大体3日ぐらいで、帳尻を合わせる。 「うわあ、宴会で食い過ぎた」と思ったら、翌朝、「昨日しっかり食ったから、きょうは控えめにしとこうか」っていうので、夕方や翌朝、体重計に乗って、翌日には戻るようにしています。



高橋


先生も、体重計に乗っていらっしゃるんですね。



森谷


それは、体脂肪も出るんですけど、毎日乗っています。



高橋


体重計に乗って、頑張るのはいいことで、一方では、きちんとその理屈を考えるっていうことで、すごくわかりやすいと思います。 後は、何でしょうね。 きょうの後の討論のテーマは、「こうやったら続けられるぞ、運動」ってことになりますかね。 かっこいい筋肉トレーニングも、理屈じゃわかるんですけど、続かないんですよね。


私、実は、10何年前に、一念発起したことがあって、その時、思ったのは、無理をしない。 だらだらでも、楽しく続けられるのは何だろうと考えて、「とことこジョギング」をして、しんどけりゃ休むとか、でも、とにかくやる、と。 そうしますと、無理をしないでやるという効用は、理屈抜きに気持ちいいんですね。 ストレスはなくなるし、その後のビールはうまいし…。 何か、自分にご褒美がないと、根性と辛抱だけでは、こりゃ続かんなあと。 自画自賛ですけど、これ、正しかったと思うんですよ。 10年以上続いてますからね。


最後に、ダイエット関連のビジネスに関してですけど、今、いろんな媒体で、何でここまでっていうほどはありますよね。 深夜のテレビは、ダイエットとお肌のコマーシャルばかり。 これ、何とかならんもんかなと思いますね。 嘘ばっかりみたいな感じです。 でね、先生のような、ほんとは違うんだよというようなご本を書かれたとしても、もしかしたら世間では、またダイエットか、また嘘違うみたいな…。 ここの矛盾を先生も変えようとされていると思うんです。 世の中も何とかしてこれを変えていかないと、嘘の情報が氾濫して、ほんまもんが埋もれてしまう。 これはダイエットと化粧品以外にもたくさんあると思いますけれども、国民全体が、もっとほんまもんに近づくような、私にも妙案はありませんけど、きょうは、そのことを考える、非常にいいきっかけをくださったと思います。



荻野


では、田邉さんに、もう一度、お話しいただいて、この討議を終えたいと思います。



田邉


じゃあ、行動変容のきっかけ、ということで、手短にお話をしたいと思います。 実は、私も、去年の11月ぐらいまでは、毎晩浴びるように酒を飲んでおりました。 酒で酔っ払うのが大好きなんです。 で、ある時、めったに乗らない体重計に乗ったら、体重が100キロを超えていました。 ただ、まあ、これは、あんまり気にしなかった。 実は、私、その1年前から自転車に乗り始めていたんです。 友だちに勧められて。 それで、ある日、初心者の男の子、ぼくの5つ、6つ下の男の子と一緒に自転車に乗ったんですけど、1年先にやっていたにもかかわらず、余裕で負けたんです。 ロードバイクで。 それで、こりゃあかんな、と。 それで、山口さんがされておられるようなパーソナルジムに通って、朝昼晩、ほとんど調理をして、脂質を完全にカットして、森谷先生には怒られるかもしれませんけど、炭水化物もカットして…。 で、3カ月ぐらいですけど、体重が7~8キロ落ちてきた段階です。 そうやって、毎日、体重計に乗って、体重や体脂肪が減っているというのを見ると、うれしくなって、これまでウオーキングしていたのが、ジョギングしようか、それがハーフマラソンになり…と、いいように回転していく。 まあ、私の場合、変容のきっかけは、自転車で後輩に負けたということなんですね。 もっとも、酒は、相変わらず飲んでますけど…。



高橋


お酒のカロリーって、種類で違うと言いますけど、数字を教えてください。



森谷


基本的に、アルコールは1グラム7キロカロリーで計算します。 タンパク質、炭水化物は1グラム4キロカロリー、脂肪は1グラムで9キロカロリーです、摂る時は。 ですから、アルコールは結構カロリーが高い方に入ります。 ただ、サントリーとやった実験もあるんですけど、飲むとね、熱くなるじゃないですか。 交感神経をたたくんで、発熱するんですよ、多少。 だから、発熱で飛ぶんです。 20~30%のカロリーは飛ぶんです。 だから、まあ、立って食事してるみたいなものです。 あんまり、お酒に関しては、種類と疾患の関係もあんまりなくて、やはり、量ですね。



高田


いやはや、まったく、年をとったら、確実に酒量は減ります。 ぼくは20代のころ、自分で酒場を経営していたので、それ以来の自分の酒の受容能力の変化がよく分かるのです。


ところで高橋さんが、さきほど「ご褒美」といった言葉をお使いになったようですが、もうひとつ、ダイエットを「遊びにしてしまう」という手がありそうですね。 たとえば「測るだけダイエット」――毎日、体重計に乗って、その結果の数値を記録しておくと面白くなってきます。 そういえば、あの選挙マニアのドクター中松さんは、2005年にイグノーベル賞をもらっているんですが、彼は、30年ぐらい、ほとんど欠かさず食事と体調を日記に書いて、結果を論文にまとめた。 で、食べたものは3日目ぐらい後に体調に影響を及ぼすことが分かったというわけです。 まあ、それがイグノーベル賞の対象になったわけですが……。 こういうのって面白いと思いますね。


ダイエットの場合は、体重計のデータが基礎になるわけですが、そういえば最近、睡眠の長さや良し悪しを測定する機械が関心を集めています。 その開発はオムロンヘルスケアが行なったのですが、ぼくら睡眠文化研究会も一定の協力をしたわけです。 これらはいずれも、体調を数値化したデータを見て、自分の体調とその意味を考える、一種のバイオフィードバックだと思います。 ただ昔の人は、機械によって外在化されたデータなど見なくても、ちゃんとこういうことが出来たのだと思います。 ところが現代人は、自分の体調を自分で感じ取ることができないので、体重計や睡眠計、血圧計や体温計などを使って自分の体調を知り、それを日常生活にフィードバックするという面倒なことをせざるをえなくなったのでしょう。 これらを毎日測定して記録しておくと、やがて数値が変化します。 たとえば血圧ですが、去年の1月と今年の1月の血圧の平均値を比べると、ぼくの場合は最高血圧が15ポイントぐらい減少していました。 同じ期間に体温は1度ぐらい上昇して、今は36度前後になっています。 体重も一度6キロぐらい減りました。 まあ、その後、少し増加しています。 こういう具合に「バイオフィードバックで遊ぶ」という方法がありそうな気がします。



森谷


「つけるだけで痩せるダイエット」っていうのが結構流行ったんです。 何かというと、体重を書いていって、体重が増える時がある。 その時に、思い当たることを書くんですよ、エピソードを。 例えば、お好み焼きを食べた日は、よう太るとか。 それをやっていくと、自分の行動を変えようっていうことになり、そうすると、つけているだけで、だんだん痩せていけるっていうわけです。



高田


痩せないにしても、太りすぎないようですよ。 まあ、かりに増えてしまっても、フィードバックがかかってリバウンドを抑制できそうです。



荻野


この場での討論は時間が来ましたが、話は尽きないですね。 この後、別の場所で、続けられればと思います。



 



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人間ひとりひとりの深く高質な感性(クオリア)に価値を置く社会、これは各人の異なる感性や創造性が光の波のように交錯する社会ともいえます。
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