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第4回クオリアAGORA/~宇宙の不思議_生命の不思議~


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壮大な宇宙と生命の歴史をひも解きながら、人類とは、これから進むべき針路は、などについて自由闊達に語り合う機会をもちたいと、第4回クオリアAGORAのテーマは「宇宙の不思議 生命の不思議」としました。 私たちの立ち位置の再確認にも繋がればと考えております。
まず、京都大学大学院理学研究科の長田哲也教授とJT生命誌研究館の中村桂子館長がスピーチ、その後堀場製作所の堀場雅夫最高顧問、同志社大学大学院経済学研究科の篠原総一教授が加わりディスカッションを行いました。

 


 

スピーチ

ディスカッション

ワールドカフェ

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第4回クオリアAGORA/~宇宙の不思議 生命の不思議~/日時:平成24年8月30日(木)16:30~20:00/場所:京都高度技術研究所10F/今回のクオリアAGORAは、変則的にディスカッションとワールドカフェの二部構成にて開催いたします。 (スピーチはありません。 )/コアディスカッサント:中村桂子(JT生命誌館館長)、長田哲也(京都大学大学院理学研究科教授)/【ディスカッションの概要】137億年前にビッグバンという大爆発で誕生したとされる宇宙、そして40億年前にはこの地球上に生命体が誕生しました。 地球の海の中で誕生したとされる生きもの共通の祖先ですが、ではなぜ、海のある地球が生まれたのでしょうか。 また宇宙からどのようにして地球が生まれ、生きものが誕生したのでしょうか。 宇宙は謎に満ちたダイナミックな存在です。 現代科学の最先端から「生命」とは何かを問い続ける「生命誌」の研究者、JT生命誌研究館の中村桂子館長、最新のテクノロジーを使って赤外線で宇宙を観測している京都大学大学院理学研究科の長田哲也教授らと語り合います。 /【略歴】/WORLDCAFE―クオリアAGORAはワールドカフェスタイルにて開催されます。 

 


※各表示画像はクリックすると拡大表示します。


スピーチ 「宇宙の不思議 生命の不思議」


京都大学大学院理学研究科教授 長田 哲也氏


トップバッターといたしまして、「宇宙137億年の歴史」のタイトルでお話を進めてまいります。 


科学者の使う言葉としては、はずかしいかもしれませんが、奇跡としかいいようがないように、宇宙は、なぜか生命を生み出すようにできているんです。 実は東京大学の村山斉(ひとし)先生が「宇宙はなぜこんなにうまくできているのか」という本(集英社インターナショナル)を、素粒子物理学の視点からつい最近に出されています。 


きょう、これから私も、まさにそのことを、違った視点からお話しようと思います。 盗作ではありませんので、念のため。 



天文学の一般講演を行いますと、必ず会場から出る「三大質問」というのがあります。 


一つが「宇宙はどう始まったか」、続いて「宇宙人はいるか」、そして三つ目が「ブラックホールはあるか」というものです。 私は、この三大質問についてあまり専門ではないのですが、ただ一つ、ブラックホールについては、銀河系の中心部に超巨大ブラックホールがあることは確信しております。 というのも、太陽の400万倍というものすごい質量のブラックホールがあり、そこにガスが落ちていく様子をハワイにある国立天文台のすばる望遠鏡を使い、赤外線でとらえたのです。 余談ですが、「すばる」は競争率が高く、年に一晩とか二晩しか観測できません。 京大では新技術望遠鏡をつくるというプロジェクトを進めておりまして、これで、じっくり時間をかけてブラックホールなんかの研究もしっかりやりたいと考えております。 ちょっと、話がそれました。 きょうの本題である宇宙は、そして生命はどう始まったのかという話にもどります。 


まず、そもそも天文学、宇宙物理学という学問はどういうものでしょう。 紀元前の中国の書籍(淮南子)に「四方上下謂之宇、往古来今謂之宙」と書いてあるのですが、つまり宇=空間と宙=時間を解き明かすということで、天文学は、天体の形、組成、物理状態や運動、変化を明らかにしてきた。 同時に、それには1日、1カ月、1年というように基準となる定数の決定も必要でした。 それは、農業のいつ種をまけばいいかというようなことにもつながり、天文学は、実用の学問でもあったわけです。 もっと新しいことで言っても、基準定数の決定として、1メートルの定義は今や光の速さが元になっているのですけれど、光速の測り方はガリレオが提案し、それと違った形ではあるものの初めて実際に測ってみせたのは天文学者なんですね。 このように天文学は、基礎学問でもあり、その一方、常に最新の技術を使わなくては出来ない学問でもあります。 



尻尾をくわえた蛇 ウロボロス



そこで、今、到達した宇宙観とはどんなものかということです。  上の資料の絵を見てください。 「尻尾をくわえた蛇ウロボロス」といい、ノーベル賞を受賞した素粒子物理学者グラショーが、古代神話で「死と再生」の象徴とされるウロボロスになぞらえてこんな絵にしました。 つまり、極限まで小さな素粒子の研究を進めれば壮大な宇宙全体の構造がわかるということを示したんですね。 そこに緑の文字で書いている「特殊相対性理論」「一般相対性理論」「原子物理学」「原子核物理学」「素粒子物理学」という物理学の発展によってこの宇宙観が出てきたんです。 



それでは、実際に、天文学、宇宙物理学はどのように発展してきたかをさかのぼって見てみましょう。 


天文学は16世紀、コペルニクスやチコブラーエ、ケプラーによって、望遠鏡なしでも肉眼での観測と数学の力で「地動説」までは来ていました。 しかし、それを確固としたものにするには、1609年、ガリレオ・ガリレイが天体望遠鏡を作って天体観測を行い、木星の衛星を発見するなどの成果が必要だったのです。 この後も、天文学は、新しい学問の発展を取り込みながら、18世紀から20世紀にかけて銀河が発見されるなどして、現在のビックバン宇宙論へとつながっていくのです。 



天文学の歴史



このビッグバン宇宙論を支えている要、あるいは鼎を支える三つの足といえるものを、上の資料に緑色の字で載せております▽ドップラー効果で調べられた宇宙の膨張▽宇宙の元素の起源▽全天からの一様な電波―の三つの発見です。 これから、このうち最初の二つを中心にまず、お話ししようと思います。 


まず、ドップラー効果で発見された宇宙の膨張です。 1929年に発表された有名な「ハッブルの法則」というのがあります。 「近い銀河ほど遅く、遠い銀河ほど速く、私たちから遠ざかっている」という法則なんですが、この前に、まず、分光観測(スペクトル)ということから説明したいと思います。 19世紀にドイツのフラウンホーファーが、太陽の光を虹色のスペクトルに分けて観測し、そこに黒い「暗線」を発見します。 それは、今、フラウンホーファー線と呼ばれておりますが、彼は、主要な暗線にAからKの記号を付けました。 例えば、ナトリウムのはD線といいます。 ところで、実証哲学で知られるオーギュスト・コントは1842年、「星がどんなものからできているか、化学的、鉱物学的性質については永遠に何も知りえない」といったのです。 コントに恨みはないんですが、この自信満々の考えはそうではなかったんですね。 それから10数年後、分光学を使い、ブンゼンとかキルヒホッフが、フラウンホーファーが太陽で発見したD線はナトリウムのスペクトルと同じであることから、太陽にはナトリウムがあることを突き止め、あっさり、コントの考えを覆してしまったのでした。 さらに、イギリスの天文学者ハギンズが、1868年に、分光学によるスペクトル分析とすでに発見されていたドップラー現象によって、シリウスが地球から遠ざかっていく視線方向の速度を測ります。 


つまり、物質には固有の波長がある。 ちょっと詳しく申し上げますと、ナトリウムの場合は、589ナノメートルと589.5ナノメートルのところに特徴的な線があります。 だから、太陽でこの線が見えたらナトリウムがあるということがわかったんですが、さらに、運動で、波長がわずかにずれるということがあります。 スライドにはナトリウムランプが輝いている高速道路が映っています。 ここを走っていて、余り追いかけられたくないものですが、(パトカーが)追いかけてくる時、サイレンの音は、近づいてくるとわずかに高い音になり、遠ざかっていく時はわずかに音が低くなります。 これが音のドップラー効果で、天体に関しては、光のドップラー効果を使うと、天体がわれわれに近づいてきているのか遠ざかっていっているのかがわかるというわけです。 



物質には固有の波長がある



ちょっともどって、固有の波長があるということですが、それは、周期律表を見てください。 原子核の周りを回っている一番外側の電子によってその物質の化学的要素が決まるということで、表の端にあるナトリウムなら1個電子がありまして、この電子が落ちてくる時に先ほどの589ナノメートルと589.5ナノメートルの光を出すわけです。 炭素という物質は、ナトリウムと違って、外側に四つも電子がありまして、いろんなものと結び付いて生命をつくるということにつながるわけなんですね。 で、こういうさまざまな元素があるが、それぞれが特徴的なスペクトルを出していて、それを観測すれば、遠ざかっているかどうか分かるんです。 


こうして、

1929年、ハッブルが、遠い銀河ほど速く遠ざかっているということを発見し、これによって観測事実として、宇宙が膨張していることがわかってきた。 で、ですね、これを逆回しして昔に遡っていくと、遠くのものもわれわれに非常に速く近づいてきて、ある昔の時点で、宇宙はある1点に戻ってしまいます。 つまり、その時に宇宙はある1点から始まったということになり、とても小さな範囲にすべてのものが集まった「高温高圧の宇宙」ということに考えが及ぶわけです。 そこでは、恐らく素粒子が飛び交って、元素が核融合反応をしている。 宇宙が始まった時は、今でいえば、星の中心部あるいは太陽の中心部で起こっているような反応が起こっていたであろうということになります。 そして、1946年に、そこに書いていますビッグバン宇宙論を支える一つ「宇宙の元素の起源」が説明されます。 つまり、宇宙が1点のものすごい温度、何億度何兆度というようなところから始まった3分間の間に、周期律表の、水素とヘリウムだけができたということがわかってきた。 


太陽とか地球の元素の量を調べて、宇宙は98%が水素とヘリウムだけでできていることがわかったんですね。 ただ、この残りのわずかな中に酸素が約1%、炭素が0.3%も含まれているのです。 このことが大事で、炭素とか酸素や、ものすごく多い水素を使ったようなもの(生命)が何か発展していく余地が十分あったということになるんです。 で、なぜ水素とヘリウムしかできなかったかということについてですが、ちょっと原子核の図(核図表)を見ていただきたい。 水素とヘリウムができた後、質量数5と8を持つ安定な原子核が存在しなかったために、それ以上にヘリウムより重い原子核合成は進まなかったということなんです。 



電子の数は陽子の数



なぜこれがうれしいかというと、そうでなかったら、どんどん核融合反応が進み、宇宙すべてが安定な元素である鉄までいってしまっておしまい、つまり炭素や酸素などを通り過ぎてしまって、生命は生まれないという、今の宇宙とは全く別の宇宙になっていたのです。 


これでビッグバン宇宙論の二つのポイントが終わりました。


最後は、3分間で水素とヘリウムができた後は、ずっと時間が経って38万年経つと、ものがぶつかり合っていたのが晴れて、われわれが見えるような宇宙になってきます。 下の図を見てください。 「宇宙背景放射」という図です。 宇宙から一様にわれわれのところに電波が降り注いでいます。 



宇宙背景放射/遠くを見るのは昔を見ること(光が届くのに時間がかかるから)



それが2.7度という絶対温度の物質が出す温度と同じだということで2.7度輻射とか3度輻射ともいわれています。 それはほとんど一様なのですが、ちょっとだけムラムラがあるというのを、微妙なずれを色分けして描いたのが下の図です。


実は、このムラムラの様子を調べたのが最新の宇宙物理の結果でありまして、それによりますと水素とかヘリウムとかの普通の物質は4%、わけがわからないが重力を及ぼす物質(ダークマタ―)が23%、そして空間の性質として何かエネルギーが満ちているというの(ダークエネルギー)が73%ということになっています。 1999年、このエネルギーによって宇宙は単なる膨張ではなく、加速膨張していることが観測結果として発表されています。 



宇宙背景放射の微妙なずれ



以上、ビッグバン宇宙論をまとめますと、


まず、普通の物質としては水素とヘリウムだけができ、ゆっくりした宇宙の膨張の中で、ちょうど良いムラムラが星や銀河を作り、星の内部でうまく酸素や炭素ができたということです。 宇宙は、なぜか生命を生み出すようにできているのです。 


さて、1995年に、初めて太陽系外の惑星が本格的に発見されました。 恒星の周りを回っている惑星は遠くの灯台の横にいる蛍に、良くたとえられます。 灯台が明るすぎて蛍は直接見えませんが、蛍の引力を受けて灯台がわずかにふらつくのがドップラー効果でとらえられたのです。 さらに、蛍が灯台の前を横切る、あるいは惑星が恒星の前を横切るとわずかに恒星が暗くなるのもわかるようになってきたんですね。 この方法で、現在では、2300もの惑星候補が見つかっていて、どうやら、恒星の周りには必ず惑星があってもよさそうだとまで考えられるようになってきました。 それで、宇宙にどれくらいの地球外に知的生命が存在しているかを推定する「ドレイクの(方程)式」というのがあるのですが、銀河系の中に1000億の恒星があるとして、この式に当てはめてみると、どうなるでしょう。 そもそものドレイクの式のように知的生命、あるいは通信が出来るような宇宙人とまでは行かなくても、実にその結果は、わが銀河(天の川銀河)には何百億という生命をはぐくんでいる星があるのではないか…。


これが、現在の宇宙物理学者の「妄想」である、ということで私の話は終わります。 



≪長田氏スピーチの資料ダウンロード(PDF:1.21 MB )≫





JT生命誌研究館館長 中村 桂子氏


ちょっと子供っぽいパンフレット配らせていただきましたが、20年前に始めました生命誌研究館のパンフレットです。 「生命誌」も「研究館」も私の造語です。 ちょっとなまいきですけれど、20年経ってやっと少しみなさまにわかっていただけるようになったかなと思っています。 始めたころは、それなあに?といわれていましたから…。 


きょうは、そこで私が何がやりたかったかを話し、後はディスカッションの中で追加したいと思います。 



生命誌絵巻

長田先生のお話にもありましたように、137億年前に何もないところから宇宙が生まれました。 その中に太陽が生まれて、地球が生まれたのが46億年前。 


地球は、初めは火の玉みたいなものだったのですが、それが落ち着いたのが40億年から38億年くらい前といわれています。 38億年前には生命体の痕跡があったとわかってきました。 地球には38億年前に生きものがいたと、一応考えていいと思います。 


この図(生命誌絵巻)の扇の要が、38億年前ですが、扇の縁が現在になります。 地球が落ち着いた時期から考えますと、生きものは、比較的簡単に生まれたんですね。 先ほど「ドレイクの式」が紹介されましたように、生きものはめったに生まれないものと長い間思われていたのですが、今では、宇宙にもたくさんいそうだと思われ始めています。 


この生命誌絵巻で申し上げたいことが、四つほどあります。 


扇の要のところが生きものの始まり、扇の縁の一番右側にバクテリア、一番左の端に人間が描いてあり、さまざまな生きものがいます。 最初に申し上げたいことですが、現存の地球上にいる生きものは、多様性が大事だということです。 どれだけ多様かというと、実は答えはわかりません。 もちろん研究していないわけでなく、170万種類までは名前がついています。 しかし、これは、ヨーロッパや日本など先進国の温帯、寒帯で主に調べられたものなのです。 


最近、熱帯が対象になってきまして、熱帯林の調査をスミソニアン博物館のアーウインさんが行いました。 アマゾンの密林で、70メートルほどの木の下にビニールのシートを敷いて燻蒸し、木にいる生きものを落としてシートの上に集めたのです。 生物多様性といいますが、その80%が実は昆虫なのです。 この時、落ちてきたのもほとんどが昆虫で、他に小動物もいたんですが、彼はそれを世界中の昆虫学者に見せ、分類、特定をと依頼しました。 その時、答えが出たのは何と3%。 わからないものが97%もあったんです。 私たちは今170万種類の生きものを知っているのですが、このパーセンテージから逆算すると、地球上には、5000万種類ぐらい生きものはいるだろうということになります。 今、熱帯雨林が壊されていますので、見たこともない生きものたちが消えている危険性があります。 このように、地球上には、まだわかっていない多様性があるということ、これが、最初に申し上げたいことです。 


その多様性の中に、科学は共通性を探します。 20世紀後半に、あらゆる生きものは細胞でできており、その中にDNAがあるという共通性がわかりましたが、DNAを解析し生きものの歴史と関係を知るというのが私の狙いです。 絵巻もどんなに多様であっても祖先は一つであったということがわかってきたので描けるわけです。 例えば、エネルギーをつくるために糖分を分解するという同じ働きをしている酵素のDNAを調べれば、人間もバクテリアも全く同じ。 そういう共通性が遺伝子を調べていくことでわかってきています。 


よく人間の遺伝子ということがいわれますが、それはありません。 人間には2万3千ほど遺伝子があり、一番近いチンパンジーとは3000ほど違うことがわかっています。 そこに人間固有の遺伝子があるはずですがまだ見つかっていません。 人間だけの遺伝子がないのではなく、サルでもネズミでも固有の遺伝子は現時点ではありません。 祖先は一つで、共有のものから出てきました。 進化学者の大野乾(すすむ)さんに有名な「一創造百(いちそうぞうひゃく)盗作(とうさく)」という言葉 があります。 最初に生まれた時だけは、遺伝子は新しく創造されたわけですが、その後は、新しいものは全く作られず、すべて最初のものからのバリエーションであるというわけです。 38億年の間に、そういうふうにして、5千万種を作ってきたのが地球上の生きものの姿です。 これが2番目にお話しすることです。 


3番目に申し上げたいことは、絵巻を見ていただきたくと、バクテリアも現存のものは、辿っていけば38億年前にもどります。 このように現存の生きものたちは、すべて38億年の歴史がないと今ここにいないということです。 よく、生きものの進化の図としてバクテリアから始まって人間に至る、下から上の縦書きの描き方がありますが、これは間違いです。 人間が一番後に生まれたことは確かですが、一番進化したのが人間という考え方は間違っていて、魚は魚、バクテリアはバクテリアで進化を続けているのであって、すべての生きものが38億年の歴史をもって生きているという描き方、考え方をしないと生きものの状況はわかりません。 


最後は当たり前のことですが、多様な生きものがいるこの絵巻の「扇」の中に人間はいるということです。 20世紀の科学技術社会を作ってきた人間は、この扇の外にいるつもりだったのです。 外にいて、多様な生物をどうするか。 そのことを象徴するのが「地球にやさしく」という言葉です。 扇は地球の中を現わしているので、自分は中にいるのですから、むしろ地球にやさしくしてもらわなければ生きていけないのに、あたかも外、しかも上の方にいて、「なんとか地球にやさしくしてやらねば、うまくないな」みたいなことをいっている。 これは、思いあがったというか、自分が生きものであることを全く忘れた文明だと思います。 私は、中に入った文明を作らなければいけないと考えています。 当たり前のことですが、最後の四つ目はこれです。 


中村氏のスピーチ

20世紀後半から21世紀にかけての人間は、金融市場で豊かになり、科学技術で便利になれば、それこそ進歩であり、文明社会であると信じてやってきた。 私もその中で生きてきましたし、経済や科学を否定するつもりはありません。 しかし、人間は自然の中にあるヒトという命をもった生きものです。 便利で豊かな暮らしだけを送る社会のありようが、自然を壊しているわけです。 地球環境問題です。 ここで特に指摘したいことは、「内なる自然」。 人間が生きものであるということは、私たちが自然だということです。 それを「内なる自然」と呼びかけます。 地球環境問題には、それなりの関心があり、企業も木を植えたるなど、いろいろなさっている。 それはそれでいいのですが、自然を壊す行為は、内なる自然も壊さないわけはありません。 つまり人間を壊すことでもあるんです。 このことに余り気が付かれていません。 


今、いじめなどの心の問題、どうも人間が壊れてきているのではないかと思われることがいろいろ出ていますが、それに対して、道徳でなんとか対処しましょうという話になる。 一方、自然環境の破壊は科学技術で解決しましょうということになる。 私は、両方とも、根っこは同じで、それは、人間が生きものであるということが忘れられているためだと思っているのです。 人間も生きものであるというところにもどりさえすれば、この二つの問題の多くが解決できるだろうと思っています。 



問題は、昨年の3.11の時に、図に付け加えたこの「自然による破壊」です。 自然は、ある時は美しくて優しく、緑があって、鳥が鳴き…ととてもすてきなんですが、実はこの自然は脅威で、地震、津波、台風、大雨、噴火がありと、すごい破壊をもたらすものなのです。 そして、3.11の体験でわかったことは、単なる地震と津波だけでなく、原子力発電所の事故につながり、自然によってもたらされた破壊がより大きなものになってしまったことです。 つまり、文明があったが故に、自然の起こす破壊がより増幅されてしまったわけで、これを考えなければいけないと思っています。 


私は、今の問題について、哲学者の大森荘蔵先生の言葉の中に答えを求め、その考え方で仕事を進めています。 それは科学(密画的世界)と日常(略画的世界)を重ね描きするというものです。 生物学の研究をしていますが、それだけをやっているわけではありません。 趣味や料理、洗濯をするという日常があります。 それから、自然とは何か生命とは何かを考える思想、文化に関係する部分もあります。 科学のこれからを考える時に、科学をどうするかという問題よりは、科学者がどうあるかという問題として解いた方がうまく解けるだろうと、今思っているのです。 


科学者は、自分の日常と自然との関わり合いの中での思想をもった存在としてある。 そう考えますと、実は、自然のことを一生懸命考えていたら、生物学だけでなく宇宙のことを考えざるをえなくなるのです。 例えば、長田先生と「学際で何かやりましょう」といって始めても、そこからは何も生まれないと思うのです。 そうではなく、自分のことを一生懸命やっていたら宇宙とつながっているという状態になって、そこから新しいものを生み出すのではないでしょうか。 


今地球型の星がみつかっていますから、宇宙の専門家と話ができます。 長田先生も、宇宙にも生きものが生まれるらしいと思われたら、そこから生きものに興味をお持ちになるのではないでしょうか。 あるいは、日常生活の、育児はDNAとはつながりませんが、思う通り動かないとわかってくると心理学を勉強しないとだめだなあとなってきます。 こうしてはじめて人間を通じて学問と学問がつながり、自然を考えたり日常のことを考えたりする学問が生まれるのではないかと思っています。 学際、学際といって成功したためしがありません。 人間がつながっていくとうまくいくのではないかと思っています。 





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