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第5回クオリアAGORA/~21世紀の資源_海水の活用~


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第5回は生命のふるさと、生命を育む海がテーマです。

長年にわたり、海水中に含まれるミネラルの研究を続けてこられたタケダライフサイエンス・リサーチセンターの木村美恵子所長が、ご自身の研究成果の一端を述べるとともに、無尽蔵にある海水の活用について夢を語ってくださいました。 またこれを受け、京都大学大学院農学研究科の間藤徹教授らとディスカッション、21世紀の資源としての海水に関心が高まりました。

 


 

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第5回クオリアAGORA/~21世紀の資源 命の水「海水」の活用~/日時:平成24年9月27日(木)16:30~20:00/場所:京都高度技術研究所10F/スピーカー:木村美恵子(タケダライフサイエンスリサーチセンター所長)/【スピーチの概要】 水は生命の全てであり、水の存在が生命の存在を意味する。 宇宙の惑星における生命の存在の探索には、先ず、水の有無、“海”を探す。 生物体の構成成分の85%は水で、生命を司る体液;媒体として存在しており、ミネラルをはじめ多くの栄養成分を常に良いバランスで保ち、生命維持の泉となる。 そして、種の起原は海からであり、体液は海のミネラルと同バランスをもつ、海水はひとの羊水である。 地球上の資源が枯渇してきている今、新しい資源としての「海水:生命の母なる海」の利用がクローズアップされている。 /【略歴】京都市生まれ。 京都大学大学院農学研究科博士課程修了、スタンフォード大学で研修。 京都大学農学博士。 京都大学医学研究科助教授などを経て今に至る。 (財)ルイ・パストゥール医学研究センター 疾病予防と栄養医科学研究室室長なども務める。 専門は予防医学、分析化学、環境医学で、地球最高の資源である「海水」研究に取り組む。 /WORLDCAFE―クオリアAGORAはワールドカフェスタイルにて開催されます。 





 


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スピーチ 「21世紀の資源―命の水、海水の活用を夢見て」


タケダライフサイエンス・リサーチセンター所長 木村美恵子氏


私は、アリナミンで知られる京都大学の藤原元典先生のもとで、ビタミンB1の研究をはじめした。 


ビタミンB1欠乏が原因といわれる脚気やウエルニッケ脳症などは、ビタミン欠乏による疾病でありもかかわらず同じ症状ではないことから、他の栄養素が関係しているのではないかと考え、ビタミンとミネラルの相互関係という観点で長年、研究を続けてまいりました。 その中で、きょうのテーマである海水の中に多く含有されているマグネシウムを特に選んでやっております。 


それはビタミンB1との関係で、ビタミンB1はエネルギー代謝の補酵素として大事なものなのですが、その時同時に必要なのが補因子であるマグネシウムであるという観点から、動物実験を重ねマグネシウムの重要な役割がわかってきました。 後で具体的に述べますが、その中でも最もびっくりしたのがマグネシウムと鉄との関係でした。 その後もマグネシウムと他のミネラルとの相互関係や豊富に含む海洋深層水と人の健康についての関連などの研究を進めています。 



人工衛星からみた地球 by J.P.Matthews


この写真は、京都大学で理学部の教授をされていた英国のJ.P.Matthews先生からいただいた人工衛星から見た地球の海です。 上が表面、下に深層の海水の流れが写っています。 


深層海水の流れは、表層の海流とは全く別の流れであり、太平洋側では流れていますが、日本海側には流れていません。 深層海水は実に2000年もかかって日本の太平洋沿岸あたりに上昇して来るといわれています。 地球の水といわれるもののうち、海水はなんと97・5%を占めます。 地球上では石油がなくなってき、今度は水(河川水・地下水などの淡水)がないということで取り合いが激しさを増し、自然がどんどん壊されていっている。 


深層海水循環の模式図 (Chester)


なぜ、こんなにたくさんある海水を活用しないのか不思議でしょうがない。


私は、このミネラル豊富で無尽蔵ともいえる海の水を有効に活用することを考え、特に清浄性が特色の海洋深層水に着目し、10年前に「深層海水と健康研究会」を立ち上げ、海水で何かができないか、ぼちぼちではありますが研究をすすめているところです。 


地球の生命は海で発生し、進化するのですが、最初に海から陸にあがったのは植物で、植物が光合成により酸素を排泄し、その酸素を必要とする呼吸により生命を保つ動物が陸での生活を得た。 植物が太陽光エネルギーとミネラル・水を用いて光合成を行うクロロフィルの中心はマグネシウム、人間の血液で酸素を運ぶヘモグロビンに必要なへム鉄の構造の中心は鉄で、両者は同様の化学構造をもっており、この二つが生命の基本ともいえます。 マグネシウムの多い食品は葉菜などの植物と思われがちですが、やはり海の魚が一番良いマグネシウムの供給源となります。 


海水利用にあたり、水深600メートル~1400メートルのところで汲み上げられる海洋深層水は、その低温性、清浄性がさまざまな分野で注目され始め、近年、いろんな研究がされています。 まず、魚関係の水産業。 そして、物理的性質を利用するものでは、海洋温度差発電というのがあって佐賀大学で開発が進められています。 この他、深層水は空気に比べ炭酸ガスを60倍以上含有できるという点に着目し、炭酸ガスを深層水に埋め込んで処理しようという試みや、蒸気吸収冷凍機とかも研究が行われています。 また、化学的性質を利用したものとして、飲料水(海水ミネラル調整水) 食品、化粧品、 タラソテラピー(海洋療法)などが既に登場しております。


私は、ミネラルバランスが最もいい海水を使って身体にいい飲料水ができないものかと考え、深層水から塩分だけを取り除き、海のミネラル成分バランスをそのまま残した飲みもの実用化に成功しました。 水だけでは足がつるとか、スポーツ障害でいろいろ悩んでいた京都大学のアメリカンフットボールの学生に提供いたしましたが、これは、スポーツ、筋肉運動に最も重要なミネラルであるマグネシウムを1リットル中200ミリグラム含んでいます。 


日本人の微量元素摂取量の現状


ここで、私が研究してきたミネラルについてお話しいたします。


ミネネラルには、栄養素として何らかの機能が明らかにされている(必須性が証明されている)ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リンの5元素といわれる「多量元素」と「微量元素」があります。 微量の元素は、多く身体に入ると害を起こすし、少ないと欠乏を起こして死に至りますが、哺乳動物に必須性が証明されているものが鉄、亜鉛など16種類、多分、必須であろうがそれが証明されていないものがリチウム、ストロンチウムなど7種類あります。 それで、まあ、なぜこうなったかということはよくわからないですが、画面の表のとおり厚生労働省で摂取基準(2010年)が決められております。 次の図は、われわれがどのぐらい微量元素を摂取しているかを示したものです。 


周期率表


さて、この周期律表は私が、海の水にはどんなミネラルが含まれているか興味を持ちまして、マグネシウムを中心に調べた結果を記しています。 水色になっているのが海の中に存在していることが証明されているものですが、こうして海水を調べてみて、あらためて海水はすばらしいバランスでミネラルがあることが解りました。 これは、人の体液中のミネラルと同じバランスです。 ただ、ナトリウムとクロムの濃度は3倍から4倍高いのですね。


こうした海を知るたびに思うのですが、ミネラルが豊富なせいで、海水中の植物は肥料をやらなくても育っています。 でも、地上では肥料として栄養を与えないと育ちません。 海水でなんとか植物を育てられたら、肥料をやらなくて済むのではないか、と。 光合成に必須のマグネシウムが高濃度でというのが、海水の特色で、塩分を少し除けば海水は植物にとって重要な養分になるはずだと信じています。 また、先程も触れましたが、図にも示していますように、濃度は海水の方が濃いものの人、多くの動植物の体液と海水中のミネラルは、多くが正の相関関係を示していて、まさに生物は海からやってきたということを物語っております。 


海水中ミネラル濃度と血清中ミネラル濃度の相関関係


では、私がこれまで行った研究のうち、
マグネシウムなどミネラルと健康についてお話ししたいと思います。 


私たちが飲んでいる水道の水は、健康と大きな関わりがあります。 1995年の時点の都道府県別平均寿命と同年の65歳の平均余命を表にしたものをみてください。 どちらの表からも青森と大阪が悪く、沖縄が良いことが見て取れます。 気になるのは、65年から95年までの経年変化の表でも明らかですが、近年、急速に大阪が悪化していることです。 


都道府県別平均寿命


都道府県別平均余命


平均寿命の経年変化


私たちは、なぜこんなに悪くなったかといろいろ統計をとって調べた結果、がんの死亡率と水道原水の水質との関連が浮上してきました。 大阪は水道の原水の水質が全国で最も悪いことがわかったのです。 北海道から沖縄まで水道のミネラルから、カルシウムとマグネシウムの濃度との関連で見ますと、表のように平均寿命の短い東北、近畿で低値を示し、寿命が長い関東や沖縄では高い値を示しました。 河川と湖中のミネラル調査でも近畿の河川では低く、特に和歌山の古座川ではマグネシウム、カルシウムが全国最低値で、流域は筋萎縮性束索硬化症という病気の多発地域でありました。 これは、藤原先生らの研究で、マグネシウムの欠乏だと原因が明らかになり、疾患治療が進み、亡くなる方もなくなりました。 


近畿の水のミネラルが低値なのは、火山がないということが大きく影響していて、火山のある静岡とか山梨、北海道、熊本などの河川水には多くのミネラルが高値であり、これらの地域では平均寿命が長く、健康状態が良いことがわかります。 種々の飲料水が出ておりますが、ミネラルが高いものもありますが、ヨーロッパの水はカルシウムが多すぎます。 やはり、先ほどお話しした深層海水から塩分を除いた飲料水が人体の健康には効果的と考えています。 


では、マグネシウムと生活習慣病について少しお話しいたします。 


イタイイタイ病の原因を突き止められた岡山大学の小林純先生(故人)は、日本の河川水のミネラルパターンを調べられ、「硬水地方に住んでいる人は心臓病が少なく、軟水地方では心臓病が多い」という報告を出されました。 、本報告が心臓病の多いアメリカで注目され、カルシウム(Ca)/マグネシウム(Mg)比が虚血性疾患と正の相関があると注目されたのです。 


日本水道中ミネラル濃度


さらに、心疾患でなくなった人の心筋中のマグネシウムとカルシウムを測定すると事故で死んだ人より、マグネシウムが少なくカルシウムが高いということまでわかりました。 


食事中カルシウム/マグネシウム比と虚血性心疾患


総じて、ナトリウム(Na)とカルシウム(Ca)/カリウム(K)とマグネシウム比が高いということが心疾患、循環器疾患の危険因子といえます。 血管の収縮、狭窄につながります。 


循環器疾患死亡率と水の硬度


塩分等原因はいろいろありますが、マグネシウムとカルシウムの血圧への影響をみますと、カルシウムが不足すると血圧が上がります。 白米にはカルシウムが少ないということがあり、昔から、日本人は常時カルシウム不足で血圧が高いということが考えられます。 一方、マグネシウムが不足すると血圧は低下します。 実は、カルシウムとマグネシウム両方が欠乏すると血圧への影響が少なくなります。 画面では、マグネシウムとカルシウムの欠乏ラットの姿を映しています。 


マグネシム欠乏ラット


こうした実験で、驚いたのはマグネシウムと鉄の関係です。 マグネシウムが欠乏すると、脾臓と肝臓にあっという間、一週間で鉄がたまってきます。 鉄沈着症といいますが、生体では機能を発揮できない非へム鉄が沈着してきます。 血液検査では貧血を示すので、鉄製剤投与されますが、貧血改善はおろか、逆に鉄の沈着が強調されます(難病指定されている鉄沈着症:Hemochromatosisのモデル)。 ところが、マグネシウムを摂取すれば、劇的に役に立つヘム鉄に変わるのです。 


また、今、骨粗鬆症でカルシウム摂取がやかましくいわれるのですが、カルシウムばかり採ると、過剰なカルシウムを排出しようとし、その時、血中のミネラルバランスを保持する必要から、マグネシウムをはじめ他のミネラルが骨から溶出し、かえって骨は脆弱ボロボロになってしまいます。 ミネラルはバランスが大切で、特にカルシウムとマグネシウムをバランスよくとることが重要です。 


最後に、


学生のために開発した飲料水、「Mg200」といっておりますが、1リットル中、マグネシウムを200ミリグラム含有する飲み物で、スポーツによる様々なストレスにはもちろん、コレステロールを下げ、痛風にもよく効くということが分かってきております。 最近、水稲発芽・生育予備実験を実施、この水または4倍から6倍の希釈海水では良好な結果が得られました。 本年、一昨年の東北津波により海水を浴びた水田では水稲が緑豊かな生育と良好な収穫が得られたと言う報告もあります。 塩分が少し希釈されたミネラル豊富な海水は、植物の成長に効果的だと信じており、海水の活用へ夢はますます広がっています。 


あまり企業化とか事業化の話はできませんでした。 私は、先端医療技術の開発も重要ですが、自分の生活を楽しくして、病気にならないようにすること、予防医学の研究がより大切であると思っております。 「肝臓移植の費用があれば、何万人ものための疾病予防ができる」という恩師藤原先生のお言葉をいつも心に留めて、これからも予防医学に邁進したいと思っております。 ありがとうございました。 



≪木村氏スピーチの資料ダウンロード(PDF:6.85 MB )≫



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